青のない春
時々。そう、時々。自分の立ち位置を強制的に理解させられる時がある。そんな時、嫌に冷静な自分が「あぁそうだった」と思い出すのだ。
ロナイトファミリーの拠点である屋敷は大きく、幹部の人間であれば住んでいる者が多い。幹部でなくとも、それなりの立場、信頼があれば部屋を与えられることも多く、所帯を持つ人間でなければそれを利用している者がほとんどだった。
部屋の広さも立場によって様々ではあるが、それでも与えられているクラスの人間なだけあって、どの部屋も狭すぎることはない。
そんな屋敷の一部屋。簡易的なベッドに机、小さな棚。せっかく与えられている部屋ではあるが、面白みの欠片もないこの個人的に与えられた部屋で、クリードは内心渋い顔を崩す事が出来なかった。
それにもきちんと理由がある。ロナイトファミリーの次期ドンである現ドンであるリチャードの一人息子、その男が、自身に与えられている部屋にまるで我が物顔で居座っているという事だ。
否、居座っているだけならまだいい。むしろ部屋に遊びにくることはよくあることだし、男の突飛とも言える行動はこの程度であればまだ可愛い程度だ。
──問題は、その男が今この部屋を物色しているということである。
「んー…」
がさごそ。がさごそ。
何を探しているのか、キーツはクリードの部屋を朝から物色し続けていた。狭くはないがそう広くもない部屋だ。自分の正体が暴露るようなものは隠していない。ベッドの下に武器は隠しているが、しかし特に訝しむようなものではないだろう。いざという時のために身を守るためであることは、どちらにせよ変わりないのだから。
それから幾分かと、この屋敷の実質No.2である男の家探し──と言っても一部屋ではあるが──は続き、しかしそれは唐突に終わりを告げた。
「よし、買い物行くか」
パンッと気持ちのいい乾いた音を響かせて、キーツはひとつ手を叩く。振り返ったその男は、満面の笑み以外に言いようがないほどには、影一つもない笑みを浮かべていた。
「…まだ行くのか?」
「え? おう」
燦々と輝く太陽の下、さも当たり前だろと言わんばかりにキーツは頷く。表面上では少しばかりの困ったような表情を浮かべながら、顔には出さないものの少しばかりの疲弊があった。
それもそのはずだ。何せ、あの言葉から早数時間。もうずっと外で店を巡っている。朝日が薄く滲んで、淡い色だった街並みはもうすでに太陽を一身に浴び、鮮やかな色を反射させていた。
何が目的で店を巡っているのだと問うても、キーツは特定のものはないと首を振るばかりであった。そしてそれは確かに嘘でないのだろう。
実際、先程から巡っている店は洋服屋から始まり、家具、インテリア、菓子…等々。取り止めもないものばかりだ。目的がはっきりしないから店を絞ることもできず、結局はリサーチしているだけのような客になっている。
一つ服を自分が試着してみたり、それを着させられたり、男が好きだという菓子を売っている店で大量に食べたり…一緒に行動しているクリードが一番何を目的に歩いているのかが分かっていない始末だ。
この辺りはロナイトが囲っているシマである事は変わりないため、それに迷惑だと言葉を投げる店員はいないことが不幸中の幸いだろうか。むしろ、どうやら歓迎の色を示す店すら多かった。
仲がいいのかと問えば「ガキの頃から知ってるよ」と笑ったり、はたまた「いや? 今初めて会った」などと様々である。
この男の顔の広さは今に始まった事ではないし、ロナイトファミリーの人間からは勿論、シマの人間からの人望も厚いと知ったのは随分と前だ。マランツァーノとは随分と毛色が違うのだなと、ここに潜入してすぐに思ったものだった。
そんな事でさえ、自分には関係ない事だと思ってもいたのだが。
街を歩いて自然と香る、どこかの店からの焼き菓子と珈琲の香り。それをお互い同時に感じたのだろう、二人は顔を見合わせる。
腕時計を確認すれば、ちょうど昼食どきだった。朝は屋敷でしっかり食べてきたとはいえ、歩き回れば腹も空く。
特に言葉もなく目線を交わして、クリードはこくりと頷く。そらきたと言わんばかりに、キーツは笑ってその香りに足を向けた。
カロンと軽やかな音を響かせて、ドアベルが鳴る。扉を開けば、それと同時に先ほどよりも濃く甘い香りが鼻腔に通った。
ショーケースには色とりどりのドーナツが並んでおり、見た目はとても華やかだ。着色料がふんだんに使われた鮮やかなそれを、キーツは特別に気に入っているようで、浮き足立ちながらあれもこれもと悩んでる。その隣にはサンドイッチが並べられており、その上で珈琲の特有の香りが腹で混ざれば、更に食欲が湧くようだった。
「ハンバーガーと、あとこれ、と、このドーナツ! あとー…コーヒー頼む!」
「しっかり食うな…。…あー、サンドイッチとコーヒーで」
店員にそう伝えてしばらく。案内されたテーブルに並べられた食事にキーツは目を輝かせる。いつも屋敷で豪勢な食事を取っている彼ではあるが、それでも外での食事も好きらしい。クリードはそんなキーツを見ながらも、自身のサンドイッチを口に放り込んだ。
どうやらこの店の野菜はどれも新鮮なようで、レタスの瑞々しさが少し疲れた体にはちょうど良かった。ベーコンやトマトは肉厚で食べ応えがあり、口でかぶりつくには少しばかり骨が折れる。それでも珈琲の少しの苦味のある穏やかな香りが鼻に通れば、食欲はさらに沸くと言うもので。
前を見れば、自分以上に大口を開けてハンバーガーを口に放り込むキーツがいる。手で掴んだバンズからとろりとチーズが垂れ「あ」と慌てて口の中に入ったものを咀嚼していた。ぼたぼたと垂れるチーズを急いで手で押さえるキーツに、何やってんだと少し呆れて笑う。
「ほら」
「あー、うー、悪い」
ぐいと包まれていたワックスペーパーでキーつの頬を拭う。「痛え」「我慢しろ」硬いその紙で少しばかり赤くなる頬に軽口をたたいて食事を再開させた。むすりと口を尖らせるキーツに笑って、再びサンドイッチを口に含んだ。
食事を終えて、再び外に出る。この店のドーナツが気に入ったのか、キーツは紙袋に大量にドーナツを入れて抱えていた。店を出てそれを持つことになるのはクリードなのだが、邪気のない笑みで「歩きながらと〜、余ったのは屋敷で食おうな」と言われれば怒る気もなれず。
最近では、むしろクリード自身ですら考えるより先にキーツの荷物を持つようにもなっていた。
外の騒がしさは昼食を終えた後でも変わらない。後に狂騒の二十年代と呼ばれるだけはあるこの街は、自動車が大量に普及し、映画やジャズなどの娯楽がそこらじゅうに転がっている。街では陽気な人間が演奏をチープな演奏を繰り広げ、それに合わせてキーツは歩きながら口ずさんでいた。
「知ってる曲か」
「いや? でも耳に残る」
いい曲だ。そう口にするキーツの足取りは軽い。そう言われて初めて、クリードは無名の演奏家から紡がれる曲に意識を向けた。
チープだと感じたそれは、確かによく聞いてみれば耳当たりがよく、生活に自然と入ってくるように感じる。
少し前を歩くキーツは、ただ街を歩いているだけでどこか楽しそうだった。それに目を細めて、その半歩後ろを歩く。
彼の見ている世界は、多分自分とは違うのだろう。そんなバカなことを考えて。
そうして外を歩いて、暫く。
どれだけの店を渡り歩いたのだろうか。雑貨店に赴けば物珍しそうなものを手に取り、人気の焼き菓子店を通れば目を輝かせて並んで。
それらを繰り返して、今。ここは高級店でもあるのだろう。ほとんどがオーダーメイドで作られているスーツは、しかし見本の衣類も飾っているようで、質の良いスーツが並べられている。そんな何店目かのテーラーでスーツを物色していれば、唐突にくるりとキーツはクリードに向き直る。
男の特徴的な目にクリードが反射して、知らずに息が詰まった。瞬きを、一度。それだけで、何故か周囲の音が遠ざかる感覚した。神経が研ぎ澄まされているのだろう。クリードは、少しばかりのこの瞳に苦手意識を感じる時があった。
分かりやすい、男のはずだ。よく笑い、馬鹿騒ぎをしている様をよく見る。どこか子供のようにすら見える時だってあるくらいには。
──それでもたまに、全てを見透かされているような気分になる。何か下手を打っているつもりはない。そもそも、それであるならこんな無防備に2人で出掛けることを良しとしないだろう。
だから自分からボロを出さない限りは、怪しまれてもいないはずだ。その「はず」なのだ。
ゆっくりと、キーツの瞼が動く。身構え、少しばかり心臓が跳ねた。「なんだ」と、あくまでも平静を装いながら訊ねて、そこから自分の失態に気付く。自分から口を出すべきではなかったかもしれない。キーツは眉を少しだけ寄せて、それから口を開いた。
何を、言われるのだろうかと。
「いや、お前の欲しいもんねえかな〜って」
「は」
思わず出たクリードの素っ頓狂な声にも構わず、キーツは続ける。その目はまた手に持ったスーツに移動されて、こちらを見ることはなかった。
さっきから色々様子見てたんだけどよ、どんな商品見せてもお前態度変わんねえんだもんよーと、男はスーツを物色しながら言葉を落とす。その間にも、あれでもないこれでもないと眉を寄せ何やら見繕っている手を止めることはない。シンプルな白いシャツを手に取ったかと思えば、ついで派手な赤色のシャツに手を伸ばす。上質なシルクの生地は手触りが良いものばかりで、それが気軽な買い物でないと悟らせた。
簡単に背中を見せて、夢中になって何をしているのかと思えば。
ただ、男への贈り物を探していたと言う。
「……」
「ん? どうした?」
「いや。……何でも」
ふいとゆるく首を振るクリードに、キーツは「いやなんかあるやつだろ!」と突っかかってくる。それでもいや、と首を振り続けていれば、口を僅かに尖らせて拗ねる姿を見せた。
たまに見せる子供のようなその表情を、存外気に入っているのだとは流石に口には出せないが。
「本当に何でもねえよ。……まあ、何か気になるものがあったら言う」
「お! そうか? 遠慮せずに言えよ、贈ってやるから」
歯を見せて笑う男に目を細める。ひとつのシマのトップの息子──次期ドンとすら言われているその立場を持ちながら、男はあまりにも『近い』男だった。
沢山の人に囲まれているのが似合う男だった。賑やかな場所が似合う男だった。笑みが似合う男だった。明るい場所が似合う男だった。
このシマのトップにいずれ立つ男は、クリードが知っているドンの姿とは掛け離れていて。
──知らずにその口が歪んでいたのは、片目の男自身すら気づいていない。
「やー、結局普通に遊んだだけになったな〜」
「構わねえよ。必要なものは揃ってるし」
既に日も沈んだ頃、ようやくそれはお開きになろうとしていた。結局その日金銭を使ったのは、その日の食事、それからキーツが気に入ったらしい小物と、同じくキーツが好む甘味だ。
元より、クリードにそこまでの物欲はない。その上身の上も身の上だ。衣食住が最低限確保されるのであれば問題はない(もちろん嗜好品が嫌いなわけではないが)。
何にせよいずれは出ていく身だ。物を多く残すべきではない。その物に愛着を持つとは思ってはいないが、しかしクリードはそれを良しとはしなかった。
この時間帯の風は、ほんのりと冷たくなってくる。それでも街の賑やかさは静まることはなく、人の活気は収まることはなかった。ロナイトファミリーのシマは、ドンであるリチャードの人柄がよく出ているようにもクリードは思う。最近では歳もあり、床に伏せることも多いがそれでもその威厳が衰えていることはないのだろうと、この街を見れば分かるほどには。
自動車の煙がふわりと漂う。特別遠くに行くわけではなかったが、車を出しても良かったかもしれない。
そんなことを思いながら通りがかった車にふと目を向けて、それから。
「あ」
──声が聞こえたのは、前からだった。
その一言だけで、赤色の声だと言うことはわかった。
だから、その視線をまた、その男に向けて。赤色が、視界に掠って。
「──ッ! ラズ!」
咄嗟に。手が伸びる。足が動く。持っていた荷物を全て放ったのに、それでも動く足は早くはならず。その1秒が何秒にも長く感じて。
それでもようやく、クリードはキーツの腕を掴んだ。ぐっとそのまま腕を引いて、受け身もそこそこに二人分の体重がクリードにのしかかる。
二人分──そう、二人分だ。キーツと、それからキーつの腕に抱かれた少女のもの。
うるさいほどに心臓が鳴っていた。耳元で聞こえるのは確かに自分の心臓の音だと分かるのに、ここまで煩わしく感じるのは今の状況が故だろうか。
「お、まえ…!」
「っ、と。大丈夫か嬢ちゃん」
口を開けて詰め寄ろうとしたクリードは、しかしキーツのその言葉に思わず押し黙る。キーツに抱かれるように静かにしていた少女は、その言葉で現実に戻ったのだろう。呆然とした顔から一気に涙がその顎を伝った。
「おー、はは、怖かったなあ。いけねえ車だ」
宥めるように少女の頭を優しく撫で、キーツは腕の中の少女の背中をとんとんと撫でる。自分だってその車に轢かれそうになっていたというのにと、そう口にしてやりたい気持ちがなくはなかったが、泣いている少女を宥めている彼を見ていれば毒気も抜かれると言うもので。
結局、少女の母親が慌てて迎えにくるまで、キーツは少女をあやすように撫でていたのだった。
「ふう……。あ、悪いなクリード。助かったよ、ありがとな」
まるで命が危なかったと思えないほどの気軽さで、男はけろりと言葉を落とす。カラッと笑うキーツに、湧き上がるのは怒りとも言える何かだった。
さっきまでは少しばかり落ち着いていた心臓の音が、また跳ね上がる感覚がした。純粋に、思い出したのだ。瞬きをすればフラッシュバックする。助ける見込みがあったわけでもなくその足を動かして。自分が僅かにでも遅れたら無くなっていた命だったのに。
「わ、るい…じゃねえだろ! お前、自分の立場わかってんのか!?」
心臓が跳ねていた。自分の足が一秒でも遅かったら、おそらく今目の前にこの男はいない。仮定の話だ。それでも、十二分にあり得た話だ。
──何より、自分の前で命の危険を晒すなど。
「え、いや」
「いやじゃねえ! 俺が少しでも遅れてたら、お前…ッ!」
怒りをそのままぶつけていれば、何度かぱちぱちと瞬きをしていたキーツは吹き出すように笑った。腹を抱えて、それはもうおかしそうに。
何を笑っているのだとさらに言葉を投げようとしても、その口は次の言葉を見つけられなかったようで。笑い声にかき消されるように、はくはくとクリードは口を何度か動かすだけだった。
あっけらかんとした笑い声に毒気は抜かれる。抜かれるのだが、それでも何か言いたげな感情はいまだに燻っていた。
キーツはひとしきり笑った後、目尻の涙を指で弾いてクリードを見る。流石に事故が起こりそうだったあの場面ではザワザワと騒がしかった周囲だったが、それも既にいつもを取り戻していた。
「やー、悪いな。珍しくて。心配してくれたんだろ? さんきゅ」
「し、……」
心配。
その言葉に、はたと体が止まる。一瞬だけ、思考が止まった。
心配? こともあろうに、自分が、この男を?
そんなわけはなかった。そんなわけはない。だって、だってそんなことあってはならない事なのだから。
自分はマランツァーノの人間だ。スパイが潜入先で心を許すなど、一番あってはならないことだろう。だから、そんなわけはない。
相手に心を許しているのはだたの見せかけだ。忠誠を誓っているのはリチャードではなくシャーネである。初めから嘘で固められた存在の自分に、そんな心があるはずがない。
そうで、なくてはならないのだ。
「ん、荷物は大丈夫そうだし、帰ろうぜ」
夜道の中で笑う男の赤が目に眩しい。手を引いて前を歩く男の目は、今度こそ見れなかった。
そこの空気は湿っていた。それは慣れたようにどこか薄暗さを持って腹に満ちる。光が届かない路地。どこか死臭すら漂っていそうなそこは、かつての居場所であり、今でも嗅ぎ慣れたものだった。
カツン、と足音が響く。空気は冷えて、余計に音が反響しているようにも感じる。
拾ってくれたのは、彼女だった。スラムで生きてきたあの場所を否定するつもりはないが、それでも過去の生活に戻りたいとは思わない。
あの寒い場所から。暖かな毛布も、綺麗な服も、豪勢な食事も、生き残るために必要な力も、全て彼女が与えてくれたのだ。
冷えた手で頬を撫でられ、我が子のように愛される事にどれだけ救われたことか。
たとえ利用価値があるからだとしても、それであるなら利用価値を自身に付加し続ければいいだけだと。
「ノック、ノック」
言い慣れた合言葉。聞き慣れた返答。
どっちつかずの猫は、確かにろくでなしなのだろう。
「なんだ? 寒いのか?」
その言葉にハッとする。どうやら屋敷に戻ってきてから軽くぼーっとしていたようだ。クリードの顔を覗き込むキーツはきょとんと目を瞬いて首を傾げる。
確かに外は冷えていたが、寒いというほどではない。首を振ったクリードに、しかしその返答が気に入らなかったのか。キーツは口を少し尖らせる。
ほら、と。それからわざわざ手袋を外してキーツはクリードの頬を包んだ。「温かいだろ、俺の手」にひ、と笑うキーツの体温は、確かに温かい。じわりと手のひらから滲んでくる温もりに、どうしてだか堪らなくなる。年齢はそう変わらないはずなのに、その手のひらの温度は子供の体温と相違ない程度には温かかった。
空気を吸う。屋敷の空気は温かく柔らかい。花の香りと、それからキッチンから漏れ出る何かのスープの匂い。肺に満ちる温度はどこまでも優しいもので、それだからこそ自分の中から棘を刺されているような気持ちにもなる。
ここは自分の居場所じゃない。そう定めたのは自分だ。
だと言うのに。
「…寒く、ねえよ」
「えー? 嘘つけ」
嘘じゃない。寒くないのだ。だから、参っているというのに。
時々。そう、時々。自分の立ち位置を強制的に理解させられる時がある。そんな時、嫌に冷静な自分が「あぁそうだった」と思い出すのだ。
ただ、それだけの話だった。
「クリード! 仕事終わったか? 飯行こうぜ」
扉を開けて開口一番。それから部屋にいる他の構成員にも声をかけて、声をかけられて。周囲は一気に賑やかになる。
ロナイトファミリーの若いドンは、立場が変わったとしてもその信頼は崩れなかった。それが今まで彼が培ってきたものなのだろう。
本来であれば、自分だってここにいることを許される立場ではない。そのつもりで動いた。一生罪を拭えるとも思っていない。だが、それでも。
「ん? 何だクリード、いいことでもあったのか?」
「…なんで」
「お? だってなんか嬉しそうだし」
よく分かんねえけど良かったなと、からりと笑う男に目を細めて笑い返す。
──それはお前がいることだ。そう言ってもきっと理解はされないのだろうと、クリードは緩く首を振った。