久々の大型の捕物だった。

「…と、言うわけで! かんぱーい!」

 カキンと小気味いい金属音が響く。今日のように一課の人間たちが揃って仕事終わりに集まるのは相当に珍しく、その場は賑やかさで満ちていた。
 まだ若手である瀬基は、先輩にアルコールを注ぎ注がれを繰り返し適度にその場を楽しんでいた。
 そうしてしばらく時間が経った頃。ふと、瀬基はテーブルで同じ一課の女性と飲んでいる相模原を見つける。相手の女性は一課の中でも随分と酒豪であると有名なことは瀬基も知っていた。
 女性同士で楽しんでいるところに割って入るほど無粋でもないが、相模原の様子を見るに既にいい量を飲んだ事が分かる。様子を見て回収するかと考えている丁度その時、相模原の前に座る女性が席を立った。丁度いい、と、瀬基はそのタイミングで腰を上げる。
 一人になったその時にも、またアルコールに手を伸ばそうとする相模原のそれをひょいと取り上げた。

「……せき?」
「そうだよ。機嫌良く酔ってるとこ悪いけどその辺でやめとけ」
「んー……なんで?」
「なんでって」

 その続きを口にしようとした男に、しかし周りから野次のようなものが飛ぶ。「そうだぞ瀬基ー! 邪魔すんなって!」「そうだそうだ! 飲みたいときゃあ飲め飲め!」「珍しいじゃねえか相模原が酔うなんてよ!」「そうそう! 功労者にはたらふく飲ませてやれって!」「だー! 酔っ払いは黙っててくれないですかね!?」
 ギャアギャアと騒ぐ酔っ払い達に瀬基は喚く。それにもまた賑やかな声を返され、男は仕方ないように息を吐いた。その間にも相模原は新しいアルコールに手を伸ばそうとしているものだから、それを先回りして上から奪い溜息を吐く。

「…飲みたい」
「却下」

 一刀両断する男に、相模原は恨めしい視線を投げる。また後ろから「お前は母親か!」「いいじゃねえか今日くらい」などとバッシングが聞こえ、それを片手で振り払う。この後この酔っ払いの面倒を見るのはこっちなのだという声をなんとか喉に押し込め息を吐いた。
 そうこうしてる間にも場の時間は過ぎていく。瀬基も今回の功労者だ。労いの言葉もたくさん降り掛かるし、それと同時にコップにはアルコールが注がれる。別段断る理由も無く、酔うまではいかない程度にそれを飲み続け、腕を取られれば場所を移動せざるを得ない。有能である事とは別に、瀬基はまだ後輩にも当たるのだ。
 そうして、そろそろ解散の時間になった頃。二次会の話をする男たちに紛れ、瀬基は端で船を漕いでいる相模原の肩を揺らす。

「寝ぼけてないで起きろ、ほら」

 ぺちぺちと頬を軽く叩く男に、些か不足そうな顔をして相模原は眉を寄せる。

「疲れてんなら断っとけよ。変なところでその律儀さ出してんじゃねえっつの」
「んー…」
「…はあー……」

 生返事のそれは、おそらく既に睡魔に侵されている事が容易にわかった。珍しいこともあるものだ。まあ、別段酒に弱いというわけでもないし、その上何だかんだで彼女も義理堅い。先輩に注がれて一対一であのように話していれば自然と量も飲んでしまったのだろう。
 瞼がとろんと溶けている。頬はほんのりと赤みが刺していて吐く息は熱い。あまり他人に見せたい顔でもないなと肩に担ごうと腕を握った。そうして肩にかけた時、ひょこりと先輩の一人が顔を覗かせる。

「お? 何だお持ち帰りか瀬基」
「五月蝿いですよ酔っ払い。タクシーに乗せるだけです」
「お〜、そんなに酔ってんのか。珍しいな」
「木村さんとサシで飲んでましたからね。あの人誰彼構わず捕まえるから…」

 自分もこの前付き合って酷い目にあったと息を吐けば、先輩に当たる男はカラカラと豪快に笑った。

「でもこの前木村もお前の事末恐ろしいっつってたぞ」
「はあ?」
「まあ何だ。…強過ぎても、敵を作りやすい。今はその辺上手くやってるがな、その内周りの目も変わってくる。お前は期待に応えるだろうけど──その時、一人になってそうで怖いんだよお前は」
「…珍しく曖昧な事言いますね」

 苦笑してそう言えば、酔っ払いの戯言だと先輩も笑う。そんな話をしていれば、肩に寄りかかる相模原がもぞもぞと動いた。

「んん〜…ん……」
「はは、眠そうだなあ相模原」
「あぁ…早くタクシー乗せますよ」
「よろしくなあ」

 ひらひらと手を振って、その男はまた仲間たちの喧騒の中へと戻っていく。肩を落としてそれを見送り、再度よっと声を上げながら相模原を抱え直した。

「せき…」
「ん? 起きたか。タクシー呼んでるから。…乗ったら一人で帰れるよな?」
「んー……せき…?」
「おう。何?」
「んん…んー……」

 目を緩く瞬きながら、相模原は少し舌ったらずなまま男の名を何度も呼ぶ。一応意識はあるから大丈夫かと考えながら、男はそのままゆっくりと足を進めた。その間に上司たちに声を掛けられながらも、タクシーまで足を運ぶ。

「…せーきー」
「だから何──…」

 タクシーの扉が開き、もうそろそろタクシーに乗せられるというところで、くい、と。相模原は瀬基の耳元に口を寄せた。まるで内緒話をするかのように、手で口を隠して。息も当たるような近さで、そのまま。

「ちゅーしたい」
「────」

 瞬間、言われたその言葉に目を見開いた男の肩がかくんと落ちる。彼女もそれによりぐらりと揺れ、思わずたたらを踏んだ。咄嗟にそのまま座席に座らせる事で事なきを得たが、知らずに男は自分の額に手を当てる。
 何を、この馬鹿は、今。

「瀬基ー、二軒目…ってどうした?」
「何でもないです」
「お、おぉ…? っと、相模原はもうダウンしてんのか。タクシー突っ込んだら帰れるかー?」
「んん…はい、帰れます…」

 もぞ…と動く相模原に、瀬基は一度息を吐く。

「…あー、いえ、危なそうなんで俺送ってきます」
「おっまえ! 二軒目断る理由にしてねえか!?」
「あははは」
「笑って誤魔化すなよ〜!」

 えぇ、と非難の声が上がるも、しかしそんな先輩も店から出てきた上司に肩を組まれればそちらに行くしかなく。「本当にいいのか?」「まあ、家も近いんで。タクシー一緒に乗った方が俺も楽なんですよ」「あぁ。悪いな、頼んだぞー」「はい」なんて会話を上司としながら、瀬基も一緒にタクシーに乗り込んだ。







「んん…んーう…」
「餓鬼か。…あー酒臭え……」
「んー…」

 肩を貸しながらマンションのエレベーターに乗る。横抱きにした方が幾分と楽で早いのだが、流石に人の目がある中でそれをやるのも目立つため、ひょこひょこと動かない相模原の脚をズルズル無理矢理動かしながら自宅の扉を開いた。
 微睡の中に居るのだろうか。声までが溶けている。普段はハキハキと言葉を放つ彼女のこのような姿は珍しい。滅多に酔わない事もあり、ここまで気を抜いて酔うのは久しく見ていない気がした。
 ジャケットを脱がしてベッドに転がせる。自分のジャケットも脱ぎ、流石にシャツのボタンを全て閉めたままでは寝苦しいだろうと上の二つを外す。

「瀬基ー…? ふふ、くすぐったい」
「……はー」

 大きく息を吐く。コロコロと笑い声を上げる相模原はベッドの上で気持ちよさそうに瞼を閉ざした。この調子だとしばらくすれば夢の中だろう。

「せきー、あつい……ぬがせて…」
「…」

 思わず口の中で舌を打つ。もぞもぞと半端に開いたシャツを脱ごうとしているようだが、力の入っていないそれでは思うようにいかないようで。助けを求めるように男に腕を伸ばす彼女に肩を落としながら額を軽く叩く。「いたい」とその額を押さえる彼女は、それからむすりと瀬基を見て。

「……瀬基ー、ちゅー」
「…んっとに…」
「んむ…いたい……」

 軽く頬をつねれば、非難するように男をじとりと見つめた。そのまま引っ張れば、抗議するように喉が鳴る。その様子を見て、呆れたように溜息を吐いた。この調子だと戯れ程度に触れた方がすぐに寝そうである。
 首筋に顔を寄せ、擦り寄るようにくんと顎を上げる。ちゅうと頤に口付けて、痕の残らない程度に吸い付いた。

「はっ…ふ、ぁ……せ、き……」
「瀬基じゃないだろ」
「んっ、んん、う……ん…?」
「清李」
「きよ、り…?」
「ん」

 よく出来ましたと言うように、瞼に口付ける。とろんと溶けたそれは、その口付けに嬉しそうに頬を緩ませた。「もっと」と蕩けた声で強請る彼女に、小さく息を吐いてもう一度瞼に唇を寄せた。顳顬、耳、頬、鼻。ちゅ、ちゅと軽い音を立てながら口付けていけば、きゃあきゃあと嬉しそうに相模原は笑う。

「はい、おしまい」
「ぁ、う……」

 溶けた瞳は、男のその言葉にまるで非難するかのように瀬基を見た。それに瀬基は軽く息を吐く。

「酔っ払いの相手する気はねえよ」
「……や」
「はいはい、それを素面の時に言ってほしいもんだな」

 あしらうように、そのまま体を離す。ぽんぽんと頭を撫で自分は今日はソファで寝ようかと思考して。くん、と再度すそが引かれる。それに目をやれば、口を尖らせた彼女が見えた。

「や、だ。…きより」

 するりと、そのまま身を起こした彼女の腕が男の首に回る。頬を擦り寄らせ、髪を掻き混ぜるように。──煽られている、と、口の中で舌を打つ。

「…起きてお前に怒られるの俺なんだけど」
「怒んない」
「それで毎回痛い目見てるのはお、れっ、うぇっ」

 ぐっと引き寄せられそのまま二人でベッドへと倒れ込む。ぎしりとスプリングの音を立て、二人分の身体でシーツに皺を寄せた。油断しているとは言え、瀬基相手にこうして簡単に身体を倒すことが出来るのは相模原くらいだろう。

「涼、おまっ」
「ん」

 ちう、と。飯事のような音を立てて相模原は瀬基の唇を塞ぐ。ぴくりと、男の眉が動いた。無理に引き剥がす事もせず、そのまましたいようにさせていれば、相模原はそのまま食むようにして瀬基の下唇を噛んだ。甘噛みをして、それから軽く歯を立てて。戯れのようなそれに、僅かに男の眉が寄る。これは、いつも男自身が彼女に行なっている行動だ。男を煽る為に、いつも男が自分に行う行動を取る彼女の姿はあまりにもいじらしい。

「……涼」
「ん、う……ぁ…」
「りょーうー、こら」

 戯れ合いから離れようとすれば、するりと、行かないでと言わんばかりに脚が絡む。まるで情事中のように絡み合うそこに、瀬基の目が細まった。狙ってやってるのかそうでないのか。理性の溶けた彼女の行動は、本能的に「気持ち良さ」を求めているのが分かる。
 どうしたものか、と。口を歪ませる。力任せに引き剥がすのは簡単だが、瞬間に酷く悲しそうな顔を浮かべる彼女を見るのは堪えるもので。なんだかんだ、相模原に一番甘いのも弱いのもこの男なのである。

「さわって。…きす、したい」
「…酔っ払い寝かしつけるためのもんじゃねえっつの」

 息を吐く。これはもう、聞きそうにない。
 角度を変えて、するりと彼女の口を塞ぐ。塞ぐと同時に、僅かに空いた彼女の口の中に舌を滑らせた。歯列をなぞって、舌を絡ませて。彼女の舌を吸えば、んむと彼女から声が漏れる。そうして快感から浮いた彼女の背中に手を滑らせ、くしゃりとシャツごと背中を掻き撫でた。

「ぁ…っ……ふ……」

 声を出すその表情は、アルコールの影響もあり既に赤い。目元も赤く滲んでいるせいか、それは情事後を彷彿とさせた。
 ただ揺蕩うような快感を与えるために、服の上からゆっくりじとりと肌を弄る。服の上からでもわかるほど、彼女の身体は熱っていて、直に触れてしまってもいいかもしれないと男は一つ瞬く。

「…っ、ん……う…」
「逃がすか馬鹿。…ほら、力抜け」
「あ、や、ちが……っ、きより、まって」
「待つかよ」

 服の下にするりと侵入して、男の無骨な手が地肌を滑る。ただ、撫でるだけの行為。それでも指が肌をなぞるだけで、僅かな快感から彼女は身を捩らせた。

「っ、ぁ、う……あつ、い」
「ん。…もういいか」

 指を口に含み、べ、と唾液を絡ませてそれから彼女の裂け目を中指でなぞる。それだけで大袈裟に彼女の身体は震えた。
 襞を開いて、中身を指で挟む。円を書くようにねとりと撫で付けていけば、次第にどろどろとそこは溶けていった。

「やぁ、あっ…あ、あ、ぁ……ん、んぅ…」

 腰が浮き、脚が何度もシーツを蹴る。彼女の中から溢れてくる液を指で絡めながら、またじとりとそこを刺激していった。一方的に熱を昂らせられ、それが嫌だと言わんばかりに彼女は瀬基の腕に手を伸ばす。肌が熱い。シャツ越しに触られるそれでも、その熱が十分に伝わった。

「きよ、り…んっ…ん……んぅ、ぁ、あ…」
「んー? はは、気持ちいいなあ」
「んっ! ぁ…んん…は、ぁ…ちが、そう、じゃ、なくて、ぁ……きより…!」
「うん? 気持ち良くない?」
「きもち、い…きもちいい、けど、や……きより…ね、え…っ」
「じゃあいいだろ。…ほら、何も考えんな」
「あっ…あ、あ、あ……────…っ」

 背中を反らせ、快感をそのまま受け入れる。爪先が伸び、シーツを歪めた。普段はどちらかと言うと背を丸める彼女のその姿は、見ていて酷く艶めかしい。女を感じさせるその姿に、思わず男はくっと喉を鳴らす。
 相模原はひくんと浅く呼吸し肩で息をした。夢を見ているかのように焦点は合っていない。もう瞼を落とせばきっと意識も落ちるだろう。
 それを見て、自身の熱が昂ったそれを見る。惚れている女の痴態を見て興奮しない男はそういないだろう。少なくとも瀬基はこれでも普通の男である。この後一人で処理すると考えると彼女に恨みつらみの一言でも言ってやろうかとも思うが、しかしとろんと溶けた彼女の姿を見ればその言葉も飲み込まざるを得ないというわけで。

「は……ぁっ…」
「……はあ、くそ。生殺し…」
「ん……んー…きより…?」
「なんだよ、今イッたろ。寝ろよもう…」
「いれ、ないの?」
「………」

 ぴたりと、動きが止まる。そんな男の様子に何を思ったのだろう。相模原は、きょとんと首を傾げる。

「清李。…ここ、いれたく、ない?」
「いれ──ッ、くそ! だああぁ……!」

 ここ、と、言いながら、相模原は自身の中心に手を寄せる。達したばかりのそこは濡れそぼっており何かを求めるようにひくついている。──ここに、挿れたら。さぞかし気持ちがいいのだろう。
 挿れたくないわけがない。挿れてぐちゃぐちゃに掻き回して奥へと欲をぶつけて。彼女の声と温度を全て飲み込むあの時の快感を知らない程、瀬基は子供ではなかった。
 ぐ、ぐ…。と眉を寄せる。酔っ払った相手とはいえ恋人だ。それに、そういう行為をしたことが無いわけでもない。つまるところ誰にも咎められる謂れはないわけで。据え膳というものもある。しかし。これではあまりにも余裕がないのではないか。
 ことりと首を傾げる彼女からは色香が放たれているのに、その感情からは純粋な疑問しか感じない。だからこそ、動いていいものかと悩んでしまう。

「きより」
「……なんだよ」
「すき」

 うん。もういいのではないだろうか。
 えへへと子供のように顔を緩ませる彼女に、男はスンと表情を抜け落とす。これが負けというのなら負けでいい。元々が負け戦だ。うん。うん。そう内心で頷きながら、瀬基は相模原に覆い被さった。

「相模原さん」
「んー?」
「………後で殴っていい、ので、付き合って」
「ん…? ふふ、いいよぉ」
「…ありがとう」

 笑う彼女の唇を奪う。上唇をゆるく噛んで、引っ張って、覆って、食べて。その間に服を脱がせて相模原の身体を弄る。アルコールの影響がまだ抜けていないのだろう。火照ったそれは、しっとりと全身に汗を掻いている。腰を撫で、背中を撫で、男の大きな手が身体を這うたびに相模原の身体がひくりひくりと跳ねた。

「あっ…やぁ………ん」

 甘い声。猫のような高いそれは、行為中でしか聞くことがない。その声ごと食べるように口を合わせれば、彼女の喉からまたそれが鳴った。
 唇を合わせながら、ゆっくりと彼女の中に埋めていく。少し進むたびに背中を反らせ反応を示すものだから、男の喉もおかしそうにくすりと鳴った。

「…んっ…んん………ぁ…」

 口付けをやめれば、細く唾液が糸を張る。離れた事にまた相模原の眉が垂れ、口が緩く開く。はくりはくりと息をするように、相模原は男の名前を口にした。

「きよ、り…」
「ん、ゆっくり、な」
「ぁ………ん、あ…ぁ、きもち、い…」
「…くそ、可愛いなおい」

 激しく打つけたい衝動を噛み殺す。アルコールを適量に飲んでいる彼女に無理をさせるつもりはないし、激しくして熱が回ってしまうのも憚られる。朝起きた時に彼女が覚えているか否かは分からないが、無理をさせたいわけではない。覚えていない可能性があるなら尚更だ。
 押し付けるように、舐るように。僅かな快感でさえ刷り込ませるように、肌を撫でながらただゆっくりと注挿を繰り返す。瀬基にしてみれば拷問のような時間だが、それを耐えればこの彼女が見れると思えば幾らでも耐える事が出来るだろう。

「あ……やぁ、ん…あっ……ゃ…」
「…っ……ふー…」
「きよ、きより、ぁ、だめ、きもちい、あ……ぁ…っ」

 酒が入った彼女は、いつもよりも幾分と素直だ。幼くなると言った方が正しいだろうか。普段なら滅多に言わない言葉をすらすらと落としていく。舌ったらずになるところも、普段の彼女を知っているだけに効果は絶大である。

「いっちゃ、う……いっちゃ、ぁ、やぁ、いく、いく…」
「はっ……うん。いいよ。ほら」

 ぐちゅりと、ゆっくり奥へ回すようにして詰めていく。トントンと突くようにしてそこを刺激すれば、彼女が息を詰め喉を晒した。

「ひ───……ぁ、あ…!」
「っ」
「あっあっ、だめ、あ、や、うごかな、で、ぁっきもち、い、から、ぁ…!」
「は、ぁ………涼…っ」
「あぁ、あ、あ、あっ……やぁ、っ…ら、ぁ…ん、ん………」

 ぐり、と。達したばかりの女の奥に、さらにその奥を求めるかのようにねじ込む。多分、彼女の体力はもう限界に近いだろう。元々アルコールが入っている身だ。いつ睡魔に負けてもおかしくはない。未だに収縮が強く残るその中は蠢いて、熱くて酷く心地が良かった。出来れば彼女が寝る前に、と。その中を堪能するかのように掻き混ぜる。あともう一度と、瀬基は刺激を求め彼女の胸に手を這わせた。頂点を指で挟み、きゅうと摘む。「ひんっ」と何とも可愛い声を上げた彼女はまた背中を反らせた。その刺激に、ぐっと男も息を飲む。
 くたり、と。女はそのまま力を無くす。浅く息を吐いてそのまま彼女を見れば、すうすうと穏やかな寝息を立てて目を落としていた。彼女の頬にかかる髪を耳にかける。

「はー…。あー、くそ……余裕ねぇな…」

 背中を丸めて彼女の肩口に額を寄せる。規則正しく上下しているそれ。男の下で見せるにはあまりにも穏やかすぎる寝顔だ。いっそぐちゃぐちゃに崩してやろうかとすら思っていると彼女が知ったらどうなるのだろうか。

「……」

 どうも、ならないんだろうなと。男は呆れたように苦笑する。いつものように突っぱねてくれればいっそ楽なのに、男の柔いところを甘やかすのが彼女は一等上手かった。男の柔いところというのも、言わずもがな彼女なのだからそれも当たり前の話かもしれないのだが。
 顔を上げて、再度瞼に口付ける。自身も汗を掻いていることを自覚し苦笑する。彼女を拭いてからシャワーを浴びようかと頬を拭った。



 朝。どちらともなく目を覚ます。もぞもぞと動き出したのは相模原の方だ。それに瀬基も緩慢な動作で身を起す。シャツは着ているが、独特な倦怠感が残るそれに相模原は瀬基にじとりと視線を投げた。

「………酔っ払った相手に」
「分かってる。すみません。ごめんなさい」
「………」

 開口一番潔く頭を下げる。殴られる事を予想し目を伏せて歯を噛む。いい思いをしたのは事実だ。殴っていいと言ったのも自分であるし、ここは甘んじて受けよう。そう目を伏せる男に、しかし相模原はバツが悪そうに目を逸らす。いつまでも来ない痛みに、瀬基は瞼を上げた。

「……まあ、私も、その…悪、かったから」
「………あー、成程。今回は全部覚えてんのか」
「………」
「もうすげー可愛かったので俺としては──いってえ!」
「最低! 本当に! 最低!!」

 拳を作り全力で殴る相模原に男は顔を歪める。

「うっるせえな! 挿れたくない? なんて切なそうに聞かれる俺の身にもなれよ!」
「そ、そん……な、こと…っ」
「はっ、その顔はそれも覚えてんだろ。なあ、言ったよなあ涼ちゃん?」
「…っ…〜!」

 最悪、最低、変態…と口の中で悪態を吐く。その様子を見て息を吐いて肩を落とす瀬基に、相模原は再度目を鋭くさせた。

「でも、だ、って…! ああでも、言わない、と…我慢、してたでしょ…!」
「当たり前だろうが。酔った相手に迫るほど餓鬼じゃねえよ」
「でも言ったらすぐに籠絡したでしょ!?」
「悪いか! 惚れてる女にんな事言われてはいそうですかって言えるほど枯れてもねえよ!」
「五月蝿いわね! 開き直らないでくれる!?」

 朝からベッドの上で騒がしく言い合う事数分。ぜえはあと肩で息をしてくしゃりと前髪を掻く。
 今日は休みとは言え、いつまで経ってもベッドの上にいるわけにもいくまい。一度軽く欠伸をして、瀬基は立ち上がる。

「飯にするか」
「……」
「ん? 涼?」
「……今日は、作ってほしい」
「え、朝ご飯? いいけど…え、何?」

 朝食を作るのは基本的に早く起きた方だが、こうして同時に起きれば相模原が台所に立つ事が多い。料理を作るのは瀬基も嫌いではないし問題はないのだが、何やら言いにくそうにそんな事を言う彼女に瀬基は首を傾げた。
 相模原は、僅かに目を泳がせる。しばらくそのまま答えを待てば、逃れられないと分かったのだろう。諦めたように相模原は小さく口を開く。

「…ちょ、と。……その、昨日の、が、残ってる…から」
「……」

 瞬きを二つ。昨日の、というのは、酒というわけでもないだろう。中に出したかと一瞬頭に過ったが、しかしそんな記憶もない。つまり。
 瀬基は、そのまま腕を伸ばす。人差し指をそのまま、相模原の肩へと向けてツ、と撫でた。瞬間。

「ひっぁ…」

 光の多い朝には不似合いな甘い声が上がり、相模原はバッと自分の手で口を押さえる。ふるふると羞恥か怒りかで震えながら男を睨みつける相模原に、男はもう一度ぱちりと瞬きをした。

「襲っていいか?」
「調子に乗らないで」


好き勝手